6月に、フランス・パリでおふたりの方にインタビューをしてきました。産婦人科医 駒形依子先生と一緒の旅だったのですが、産婦人科医&漢方薬剤師ふたり組でのインタビューだったため、同じ事柄に対しても質問の仕方が違い、非常に有意義な時間となりました。
まずはじめにお話をうかがったのは助産師をされているフロランス・グレシエさん。
フロランスさんは、現在はアミアン市でフリーの助産師として活躍されている、現役バリバリのすてきな女性。かつては出産の現場でのお仕事が中心でしたが、現在は妊娠中7ヶ月までの妊婦検診と産後のペリネケア(骨盤底筋群のトレーニング、膣トレ)の指導をされています。フランス語で助産師をsage femme(サージュファム:賢い女性)と言いますが、まさにその通りの印象をうける方でした。
今回はパリ在住の友人、フランスの社会福祉制度の専門家でもある藤本玲さんからのご縁でのインタビューでした。当日のインタビューにも同席していただき、通訳をお願いしたことで、専門家そしての立場からの補足などもあり、とてもありがたかったです。
《妊娠・出産について》
フランスではほとんどが病院での出産が中心です。
院内で助産師だけで取り上げることもありますが、それは診察で妊婦に問題がないことがわかっていて、その上で、出産を行う際には病院内で医師がいる必要があるそうです。
妊娠がわかったあとの流れとしては、ホームドクターにかかり、そのあと、産婦人科の医師か助産院で定期的な検診をうけるとのこと。
ドクターは多忙で診察時間も短いので、助産院をすすめられることが多いようです。診察時間は医師だと10分、助産師だと30分くらいなので、助産師の検診のほうが、ゆったりと話や相談をすることができます。
(フランスでは、ホームドクター制度が医療の基本にあって、自分のホームドクターを受診して、そのあと専門医を受診する流れになります)
7ヶ月までの妊婦健診は助産師も行いますが、8ヶ月目以降は出産をする病院での検診になるそうです。
フランスは妊婦に対する保障が手厚く、出産費用はもちろん、妊娠3ヶ月目からは妊婦健診だけでなく、歯科診療なども含めてすべての医療費が無料になるとのことでした。妊婦さんを本当に国をあげて大事にしていることがわかります。
出産時のトラブルによる訴訟はアメリカや日本に比べて少ないそうですが、産婦人科医が激務でなり手が少なく、人手不足であることはフランスも同じだそうです。
分娩は、自然分娩が中心で、そのうち無痛分娩が9割、帝王切開については割合は出産全体の2割程度、原則的には医学的な理由で行われるそうです。
逆子だと日本では、現在基本的に100%帝王切開だそうですが、フランスでは必ずしも帝王切開ではないとのことでした。
基本的には出産に関わる費用はすべて無料です。
会陰切開は、あまりしない方向になってるとのことで、助産師も行うことができるそう。
夫の立会いは大部分がするそうで、最近は帝王切開でも横にいることが多くなってきたとのことでした。出産が夫婦の共同作業として位置づけられているのでしょうね。
出産現場での最近の流れは、産後なるべくお母さんと赤ちゃんを一緒にしてあげること。
カンガルーケア的なことも行われているようです。
また、お話を聞いてて感じたのは、日本に比べて助産師のできる仕事の範囲が広いということ。エコーや、血液検査のオーダー、避妊ピルの処方などもできるそうです。これは、産婦人医の不足からこの50年くらいで助産師のできる仕事の内容が拡大されてきたとのことでした。
《産後のケアについて》
現在、日本でも注目を集めているフランスのペリネケア。
産後の膣トレ、骨盤底筋群トレーニングのことです。
出産後6ヶ月間で10回のペリネケアを受けることができます。これは、100%保険適応で無料。大部分は助産師が行うとのことですが、一部、理学療法士がする場合もあるそうです。
ペリネケアを受ける人は全体の3分の2くらいで、特に第一子出産後は多いとのこと。また、これで最後の出産と決めたひとも、今後の生活の質を高めるためにしっかり受けると話されていたのが印象的でした。
フランスのペリネケアはもともと保険適応でしたが、ここ10年位、すごく推奨するようになったきたとのこと。
産んだ後に骨盤底筋群を鍛えてることで、尿もれや子宮脱などを防ぐとともに、将来の婦人科系の病気が減る効果が認められて積極的にすすめられるようになったそうです。
女性の生活の質を高めることはもちろんですが、問題がないうちからペリネケアを行うことで、総合的に保険診療費を下げる効果が高く予防医療的な位置づけでもあるとのことでした。
このペリネケアについては、妊娠中はあまり話さず産後1回目の指導のときに、模型を使って会陰部、骨盤底筋群の状況の解剖学的な説明を詳しくするそうです。
なぜ、こういうことをしたらいいのかも含めて、同時に、産後の注意事項についても話すとのこと。「ママへの育児教室」ということではなく、1対1でプライバシーも守られた状態で聴くことができるので、産後のお母さんにとってとても手厚い制度です。
また、このペリネケアについては、意外なことに一般的な知名度が高いわけではなく、大部分のフランス人女性も知らないとのこと。
妊娠してはじめてペリネケアのことを知る人がほとんどで、学校での性教育などでは教えないそうです。
《母乳育児について》
退院時8割が母乳、2ヶ月後に半分くらいになる。
3ヶ月後には、完全混合になるひとが多数とのことでした。
日本は1年位するひとが多いといったら、
「すごくいいことじゃない!」
と言われてましたよ。
授乳育児期間が短いことには、出産3ヶ月目から職場復帰するひとが多いことも関係しているようです。
《出産休暇・育児休暇について》
意外だったのが、育児休暇です。多くの方が取得して長くお休みするのかと思ったら、全然違っていました。育児休暇を取る女性は、全体の4分の1程度で、4分の3は出産休暇が終わる3ヶ月目には職場復帰するそうです。
産前6週、産後10週の出産休暇中は給料は全額出るそうですが、育児休暇中はほとんど出ないそうで、稼ぐために復帰するひとがおおいとのことでした。
これには、平均所得が日本に比べて低いことも関係しているようです。ただ、日本に比べて職場復帰が早い印象でしたが、この早い復帰を支えるために子育て支援が非常に充実しています。
パリでは保育所が若干不足気味のようですが、地方では不足はほぼなく、とても充実してるそうで、保育費用も無料ではないけど安く、また所得に応じての補助金が第一子から出るとのことです。そして、第3子からは所得関係なく出ます。
これは、シングルマザーでも同じとのことでした。
つづく
※こちらの記事は、2017年6月現在の、医療の現場で働かれている助産師さんへのインタビューを元にしております。フランスの制度的な面や公式統計データとは若干違う部分もあるかもしれません。ご了承下さい。