依子

〈１〉の場合、そもそも卵子が育っていない場合は、卵子から出るエストロゲンの分泌が少ないってことです。エストロゲンによって内膜が熱く育っていきます。卵子が育たないと、エストロゲンが出ないから内膜が育たない。

依子

エストロゲンが全く出ないってことはほとんどないので、出た分うっすら内膜は厚くはなる。でも排卵は起きないので、ある程度時間が経つと「（子宮内膜は）いらないな」ってことになり、勝手にはがれ落ちます。

依子

生理の量って、正常量は20−140mlくらい。これは3日から7日で出る総量です。総量が140ml超えたら過多月経なんです。

依子

卵子が育っていない人の場合、定義上「生理」ではなく、機能性出血か不正出血で終わってしまいます。

依子

定義上の生理は来てない、ということです。月経ではないんです。

依子

〈２〉の場合、卵子の大きさが22mmくらいにはなった。なったけど、「排卵ですよ！」っていう脳からの司令である「LH（黄体形成ホルモン）サージ」が出ないから、ずーっとそのままなんです。「いつ排卵したらいいっすか？」ってなったまま、LHが出ないから排卵できないパターンです。

依子

ホルモンバランスの乱れ、といってもこの時点で2種類あります。

依子

LH（黄体形成ホルモン）っていうのは、他のホルモンみたいになんとな～く出始めてゆるやかに、というものではなく、バン！て出なきゃいけないホルモンなんです。

依子

LHがバン！って出なければ、排卵しないで卵子はずーっと卵胞に残ったまま。もしくは、しばらくすると、卵子はおなかに吸収されます。

依子

吸収されずに残れば、卵巣腫瘍になることもあります。お水がたまってる状態ですね。

堀江

（卵巣腫瘍の）中身は、お水なの？

依子

卵巣腫瘍にはいろんなものがあるんですけど、（中身が）水様性のものが2種類あります。これについては後で説明します。

依子

脳から排卵の司令が出ずにエストロゲンが長く出続けると、卵子が35mmくらいにまで大きくなっちゃって、排卵が起きなければ生理も来ないので生理が不順になり、「生理が来ない」ということで診察したら、「排卵できてないですね」っていう状態になってたり……。

依子

不妊治療をすると、卵胞チェックなどでちゃんと診察に来てくれるんですよね。でも「排卵してるかどうか」をチェックしに来る人は少ないから、実際は排卵していない場合もあるんです。

依子

その時に注射を打ったりもしますけど、その注射ですらLHサージに達しない量だったら排卵は起きないので、卵胞チェックでせっかくお金をかけて排卵させるための注射を打っても、足りなければ排卵はしないんです。

堀江

あれは個人差？

依子

うん、個人差。

堀江

排卵させる注射を打ったとしても、100％ではないということ？

依子

100％じゃないです。

依子

私たち（医師）がエコーで診ているのは「卵胞」なんですよ。卵を育てている袋の方しか見ていないので、そこに卵子が必ずいるかどうかは見れないんです。ものすごくタイミングが合えばエコーで見えることもありますけど、確率的には低いです。

依子

卵胞が育ったからといって、必ずそこに卵子があるとは限りません。

依子

不妊治療でよく、「10個卵胞が育っているのに5個しか採卵できない、後は空胞だった」というのがこのパターンです。

堀江

なんで（卵胞の中に卵子が）ないの？

依子

発育の過程でバグが起きたってことかな。

堀江

なるほど。

依子

原始卵胞の数だけ卵子になるわけじゃないんですよ。その選ばれし1個の卵胞に卵子が1個あるというのは、もう奇跡に近いんです。

依子

採卵をすれば卵子があるかはわかるけど、そのまま治療をしていて、実は全部空砲、ということも可能性がないわけじゃないんだよね。

依子

採卵っていうのは、「卵子があるのかどうか」っていう検査の一つでもありますね。

依子

「卵子が100％できる体かどうか」は、妊娠したことがある人か、採卵をしたことがある人じゃないとわかりません。

依子

すごくお金がかかることだけど、自分の体に卵子ができるのかどうかを知るためには、検査をしてみてもいいかなとは思います。

依子

例え流産したとしても、妊娠はしてるので、卵子はいるんですよ。流産は悲しいことだけど、こちらとしては「卵子はいますよ」っていうサインとしか思えない。

堀江

すごいわかる。流産はこっち側（医療サイド）としては「妊娠できるんだ！」って思うんだよね。

依子

うん！だから、流産したことがある人とない人とでは、流産したことがある人の方が、どっかのタイミングで必ず1個は卵子ができる体なんですね、という証明にはなります。

依子

本人は未来が見えていないけど、こっちはすごく未来が見えてるんです。

堀江

すごいわかる！

「卵巣のう腫かどうか」を調べるタイミング

依子

それって、臓器がずーっと圧迫されてるから、圧迫された状態が普通になってくるんです。それを急に解除するとクラッシュ症候群みたいになって、たまってた老廃物が一気に解消されるから処理できなくて、という状態になりますね。

堀江

人間って、悪いなら悪いなりに均衡を保つよね。

依子

そう！じんわり悪くなって、それを放置してると、体は（その悪い状態に）対応してしまうんです。

依子

大きな卵巣腫瘍の手術では、おなかを開けたまま内容物を吸引します。内容物がおなかの中にもれちゃうと、それがガンだった場合に、ガンのステージが上がっちゃうんです。

堀江

たしかにそうだね。

依子

だから細心の注意を払って、風船みたいになった腫瘍からある程度内容物を抜いて、もれない状態にしてからおなかから出します。その内容物が悪いものかどうかは後にならないとわからないので、先に内容液を吸引します。

お客さま

その場合、卵巣は残るんですか？

依子

腫瘍が卵巣に置き換わるくらい大きくなっている場合、「卵巣を残せない」というより「正常に機能する部分がほとんどない」ので全部取ります。だから卵巣は残らないです。

依子

若い人ならなるべく卵巣を残すようにします。でも閉経後ならば、卵巣は残さないことが多いです。

依子

癒着がひどくて、卵巣を残そうとすると出血が多量になる場合があるため、その時は「卵巣は2つあるから片方残せば大丈夫」ということで、1つを取ってしまうことが多いです。

依子

皮様のう腫（デルモイド）の場合、卵巣の中身が髪の毛や歯・脂肪なので、一部でも細胞が残ると再発します。しかもチョコレートのう胞に次いで癌化率が高いんです。

依子

皮様のう腫の場合、自然に（内容物が）なくなることは絶対にないです。だから卵巣ごと取らないと再発します。

堀江

皮様のう腫って、なんでそこ（卵巣内）に髪の毛が生えるの？

依子

それは、受精卵の話になりますけど……

依子

子宮と卵巣ってちょっと特殊なんですよ。

依子

受精してすぐの分化で、最初にできるのが原口と原腸、口と腸です。

堀江

腸が最初なんだよね！

依子

そう。腸、内臓は基本的に「内胚葉」で作られて、皮膚や髪の毛・歯・神経・脂肪など外側メインのものは「外胚葉」で作られます。筋肉や子宮・卵巣・結合組織などは「中胚葉」で作られるんです。

依子

子宮と卵巣の何が特殊かというと、筋肉には2種類あるという話が関係します。

※デルモイドのはっきりとした原因は、まだ解明されていません。依子先生が紹介されているのはひとつの仮説です。