月経を歴史的に考える
今回は、月経を歴史的に見ていきましょう。
昔、月経はタブーだった
「タブー(禁忌)」という言葉があります。
タブーの語源は、ポリネシア語で月経を意味する「タブ(tabu)」。
「月経禁忌」という風習をご存知ですか?
月経禁忌とは、
生理の血がけがれているとみなすことで、月経のある女性そのものを禁忌(タブー)とすること。
実は、世界各地にそういった風習がまだ残っているのです。
ヨーロッパでは酢漬けや塩漬けをさせないなど、発酵や食品加工にたずさわる際の禁忌が多くあります。「りんご酒が発酵しない」などと言われ、女性はその場から遠ざけられたりしました。日本でも長らく、酒造りに女性は関わらせてもらえなかったのです。
これに関しては、女性の膣を酸性に保つための乳酸菌が発酵に影響を与えるから、という説もあります。
もっとも現代の保健衛生環境では考えられないことなので、女性の杜氏(酒をつくる職人)さんも今では多く活躍されています。
他にも、キリスト教・イスラム教・仏教といった宗教も、月経をタブーとしています。
旧約聖書『創世記』の中に、下記のような記述があります。
女性の生理が始まったならば、七日間は月経期間であり、この期間に彼女に触れた人はすべて夕方まで汚れている。
えええええΣ(゚Д゚)
これに似たことが日本でも起こっていました。例えば、神社にお参りできなかったり、かまどの火を扱えなかったり、果ては月経小屋といって、生理中の女性が家族と離れて小屋で生活する、ということもありました。
昔は医学が発達してなかったため、出血は死を連想させたのかもしれません。それが月経をタブーとする流れになったとも言えます。
こういった文化的、宗教的な月経のタブーが、女性蔑視や男尊女卑とつながって、ややこしいことになっていったのかもしれません。現代では考えられないことですね。
古代日本では、月経はタブーではなかった
月経をタブーとする古くからの風習が世界各地である中、日本では月経はタブーではなかったようです。
日本での月経禁忌は、時代とともに権力者によって作られていった疑惑があります。
『古事記』のなかに、
倭健命(ヤマトタケルノミコト)と美夜受比女(ミヤズヒメ)の逸話があります。
ふたりは愛を交わす約束をしますが、
約束の日にミヤズヒメに月経が来て、服の裾が血で汚れてしまうのです。
それを見たヤマトタケルノミコトが、
「おやおや、あなたの裾に月が出てしまったから、ぼくは帰らないといけないね」
という歌を詠んで帰ろうとするのですが……。
ミヤズヒメはヤマトタケルノミコトをお日様に例えて、
「お日さまを追いかけて、月が出ないわけがないじゃないの」
という返歌をしました。
その返しにヤマトタケルが感心して、
ふたりはめでたく一夜をともにしました。
という逸話があるのです。
そのくらい、昔の日本はおおらかだったのでしょう。
それが平安時代になり男性中心の社会になってくると、「月経は不浄だ」などと言い出し、月経中は朝廷に来てはいけないなどという話になり、だんだんと月経禁忌がつくられていったようです。
古事記がつくられた時期というのは、推古天皇や持統天皇など女帝がいた時代ですから、生理中の女性が不浄などと言い出すと、おかしなことになりますよね。
日本が母系社会から男性社会へと変わっていくにつれ、権力者側が「女性蔑視=月経禁忌」を作っていったという説が、いまの学会では主流だそうです。
こういった歴史的な流れで、月経が不浄のもの、タブーとされたせいで、月経のことをおおっぴらに話す習慣が日本にはありませんでした。
もっとも現代でも、おおっぴらにバンバン話せる話題というわけでもないですね^^;
昔は生理の回数が少なかった
現代の月経と昔の月経には大きな違いがあります。
なにが違うかというと、圧倒的に月経回数が違う。
昔は生理があんまりなかったのです。
昔のひとは、現代人ほど生理がなかった。
あくまで平均値での比較ですが、初経(初潮)年齢が12歳、閉経年齢が51歳の現代女性が、子どもを二人産んで、それぞれ1年間母乳で育てたとすると、月経継続年数は約35年間という計算になります。
月経周期を28日間とすると、1年に13回も月経があることになるので、生涯月経回数は455回にも上ります。
それに対して、明治時代の女性の初経年齢は現代女性より2年遅く、閉経年齢は2歳早かったのです。
子どもの数を5人とした場合、現代よりも長かった「授乳性無月経」の期間を考慮すると、生涯月経回数は50回程度であったと言われています。
結婚後はほとんど月経がなかったという女性も珍しくなかったのです。
もちろん個人差はありますが、
平均的な比較をすれば、生涯月経回数は、
- 現代女性 455回
- 明治女性 50回
子どもがひとりだったり、出産をされないひとも増えていることを考慮すれば、明治時代に比べ現代女性は10倍も月経回数が多い。
月経を歴史的に考える上で、これはものすごく大きな違いですよね。
そして、女性の健康を考える上でも、今と昔では視点が違ってきます。
子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科の病気が増えているのも、この月経回数が深く関わっていることがあります。
狩猟採集時代は、さらに生理が少なかった
農耕がはじまる前、狩猟採集生活を送っていた頃はさらに生理が少なかった可能性があります。
2歳間隔くらいで子どもがいる、あるいは、そういうペースで産みたいひとが多いと思いますが、これは本来の人間の出産ペースとは異なる可能性があるのです。
というのも、狩猟採集生活をしていた人間は、4歳間隔くらいで子どもがいたから。
人類が農耕をはじめたのは約1万年前、それより前の時代、狩猟採集をしていたころは定住をしていませんでした。
一定期間どこかに住んで、近くに食料等がなくなったら移動。
その際、子どもを抱っこして移動するのは非常に大変ですし、大きな負担がかかりますよね。
子どもをふたりも抱っこして歩かないといけないだなんて、とうてい無理な話です。
なんとか大人について歩いていける年齢は4歳くらいですから、それまでは手がかかるので次の子を育てられなかったのです。
人間のからだは、この時代の生活にあわせて進化をしています。
出産に関してもそうで、狩猟採集時代は子どもが4歳くらいになるまで、ずっとおっぱいをあげていました。
現代に生きる狩猟採集民もこれと同じで、兄弟の年齢差が4歳くらいずつはなれていることが多く、それは人類本来のリズムだと考えられています。
そして大事なポイントとして、
授乳をしている間は生理が止まります。
これが「授乳性無月経」です。
狩猟採集生活で子どもが4歳になるまで授乳をしていたということは、4年間は生理が起きないということ。
おっぱいを出すホルモン「プロラクチン」には月経を止める働きがあります。
プロラクチンは、子どもが乳首を吸う刺激で分泌が促進されるようにできているため、おっぱいを飲んでいる間はプロラクチンがずっと出るようになるのです。
人間の体ってよくできていますよね。
4歳になるまでは次の子が育てられなかったから、おっぱいをずっとあげていたから。だから生理が再開しないように人間のからだは進化してきたんだ、と思うと感慨深いものがあります。
狩猟採集民は、現代人より出産回数が多い。授乳期間も長い。
となると、一生の間に月経を経験する回数も、ものすごく少なかったと考えられますよね。
昔のひとは経血コントロールできていなかった?
昔のひとは経血コントロールをしていた、という説がありますが……。
そもそも月経回数が少なかったことを考えると、
「経血コントロールなんてできなかったのではないか?」
そう思ってしまいます。
生理用ナプキンがなかった時代は一体どうしていたのでしょう?
布・植物の繊維・紙などを膣につめたり、あてたりしていたのです。
ナプキンが近世になるまで発達しなかった原因は、
月経回数が少なかったから、極端に困らなかったから、という説もあります。
子宮や膣の構造は、おしっこを貯める膀胱(ぼうこう)とはわけが違います。
経血をためておく、というのは簡単なことではないのです。
明治時代のひとの体験談として、
「経血コントロールをしていた」というひともいますが、全員がしていたというわけではなさそうです。
ぼくは立場的にいろんなひとから生理の話をよく聞きますが、
布ナプキンに変えても経血コントロールをできないひとは、実はすごく多いのです。
なにを言いたいかというと、
そういう歴史的な経緯や解剖学的な構造を踏まえると、
経血コントロールができなくても気にしなくていい。
ということです。
「経血コントロールができない自分はダメ」みたいな感じで、自分自身を苦しめちゃってるひともいますけど、「そうじゃないよー!」いうことを言いたい。
もちろん、経血コントロールができるようになるひともいます。
ここには何か、意味があるのかもしれませんね。
かつては、立って用を足す女性用便器があったくらいなので、下半身の筋肉の発達が現代女性とは違っていたのは事実だと思います。
昔とちがって、月経の回数が10倍に増えていることも事実。
月経期間を大切な時期として、意識することは真剣におすすめしたい。
そういう意味で、布ナプキンはとてもいいと思います。
それについてはまた改めてお伝えします。
※生理やナプキンの歴史について詳しくお知りになりたい方は、田中ひかる著『生理用品の社会史』がおすすめです。
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