「妊娠中のお酒はやめましょう」
アルコール飲料のコマーシャルには必ず書かれている一言ですので、読んだり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。
一方で実際問題として、妊娠を希望している年代の女性にとって、お仕事などでお酒を飲む機会は多い、というのも事実です。「妊娠に気が付かずにお酒を飲んでしてしまっていた」と心配になってしまうという声も少なくありません。
最近では働く女性も増え、女性の社会進出とともに、女性の飲酒も昔に比べ一般的なことになってきました。
1954年に国税庁が実施した「酒類に関する世論調査」では、女性の飲酒率はわずか13%程度でした。しかし2008年に行われた全国調査では、20代前半の年代では男性よりも女性の飲酒率の方が高くなったことが報告されているのです。
今や、生活の中に飲酒が溶け込んでいるので、毎日晩酌をすることを楽しみにしている方もいるでしょうし、仕事で飲酒をする機会があるという方も多いと思います。
そこで、今回の記事では、
・妊娠中に飲酒してはいけない理由
・妊娠中に飲酒した場合に赤ちゃんへの影響は?
・いつから禁酒したらいいの?
・飲酒が赤ちゃんに与える影響について
という疑問について詳しく説明していきます。
妊娠中に飲酒してはいけない理由
赤ちゃんとお母さんは、胎盤とへその緒でつながっています。お母さんが飲食したものは赤ちゃんの体に入っていきます。そのため、飲酒時にはアルコールも赤ちゃんの体に入ってしまいます。
アルコールは肝臓で分解されて体の外に出ていきますが、お腹の中の赤ちゃんの肝臓はまだまだ成長途中なので、大人の様にアルコールを分解することができません。そのため、お母さんが飲酒をすると、赤ちゃんの体に大きな負担をかけることになるのです。
昔は、ビール350mL缶1本程度であればお腹の中の赤ちゃんに影響はないと言われていましたが、最近の研究では、
1.アルコールを分解するときに作られる物質が、お腹の中の赤ちゃんの細胞に傷をつけたり、細胞が正常に育つこと邪魔したりしてしまう可能性がある
2.アルコールによる赤ちゃんへの影響は、妊娠中であればいつでも起こる可能性がある
3.妊娠中の飲酒は、お酒の量に関係なく赤ちゃんに悪い影響を与える
ことがわかってきました。
妊娠中に飲酒しても安全なアルコールの量は、はっきりとはわかっていないのです。
妊娠超初期にお酒を飲んだらどうなるの?
妊娠超初期とは、妊娠0~4週頃の受精卵が子宮の内膜に着床するまでの期間のことで、生理予定日前後の時期になります。
妊娠超初期の時期にはまだ「つわり」などの妊娠特有の症状が出ることは少なく、妊娠検査薬でも陽性反応がでません。そのため、この時期に「妊娠に気が付かずに飲酒してしまっていた」という経験談は少なくありません。
まだ妊娠しているかどうかがはっきりと分かっていない妊娠超初期の段階では、アルコールを飲んでいたことに後から気がついて心配になる人も多いと思います。
一方で、飲酒が妊娠超初期の赤ちゃんに与える影響についてはまだはっきりとわかっていません。受精卵が着床するまでの期間はアルコールの影響を受けにくいのではないか、とも言われていますが、妊娠超初期であっても赤ちゃんはアルコールの影響を受ける可能性はゼロとは言い切れません。
妊娠に気が付いたらすぐにお酒をやめるようにしましょう。
妊娠初期にお酒を飲んだらどうなるの?
妊娠初期とは妊娠4週から15週頃までのことをいいます。
この時期はお腹の中の赤ちゃんが受精卵から人間の形に変化し、身体の色々な器官や臓器を作っていく、とても大切な時期になります。
体のだるさや吐き気などの妊娠特有の症状が出てくるのは、妊娠5~6週頃が多いので、少し生理が遅れていると考えて妊娠に気が付かない場合も多いのです。そのため妊娠超初期と同様、意に反してお酒を飲んでしまっていた、という声が聞かれがちな時期です。
妊娠初期にアルコールを飲むと「胎児性(たいじせい)アルコール症候群」といって赤ちゃんに障害がおこる可能性があります。胎児性アルコール症候群がおこる確率は、1000人あたり0.1~2名といわれています。
確率としては少ないので過度な心配は不要ですが、避けられる危険は避けるためにも、妊娠が分かったら、すぐにお酒をやめるようにしてください。
胎児性アルコール症候群って?
胎児性アルコール症候群とは、妊娠中にアルコールを飲んだ女性から生まれた子供に色々な障害が残ることをいいます。症状としては、
1.小さな目、薄い唇、低い鼻などの特徴のある顔つき
2.低体重、小さい頭囲
3.発育の遅れ
4.学習や記憶の障害、ADHD(注意欠陥性多動障害)、視覚や聴覚の障害
など、広い範囲で障害が出る可能性があることが確認されています。
アルコールは少しでも飲んだらいけないの?
基本的には妊娠中のすべての期間を通して、少量のアルコールであっても赤ちゃんに影響を及ぼす可能性ということがわかってきました。
また胎児性アルコール症候群は、アルコールの量に比例してリスクも増えていくと考えられています。
大量に飲酒をしていたアルコール依存症の女性の場合、胎児性アルコール症候群の赤ちゃんが産まれる確率は約30%だという報告もあります。また1日60g以上のアルコール(ビール1.5リットル相当)を妊娠初期に飲酒していたお母さんから生まれた赤ちゃんは、体重や頭囲が小さくなる傾向があることもわかっています。
しかし、たくさん飲酒をしていても胎児性アルコール症候群にならない赤ちゃんもいますし、少量の飲酒でも同症候群になってしまう赤ちゃんもいます。飲酒量と胎児性アルコール症候群との関係は、まだわかっていないことの方が多いのです。
現在わかっていることは、
1.同じ量のアルコール量であっても少量ずつを長期間で飲酒するよりも、短期間で大量に飲酒をした方が胎児性アルコール症候群になるリスクは高くなる
2.妊娠後期よりも妊娠初期のほうが胎児性アルコール症候群になるリスクが高い
3.赤ちゃんの成長への障害や脳の障害は、妊娠中期から後期の飲酒が影響している可能性がある
ということです。
やはり、少しだけであっても飲酒をすることは避けた方がいいでしょう。
胎児性アルコール症候群って治りますか?
残念ながら、胎児性アルコール症候群には治療法はありません。唯一の対処法は妊娠中にアルコールを摂取しないことです。
妊娠を希望されている方は、いつ妊娠してもいいようにアルコールを飲まない習慣をつけておくことは効果的な対策です。しかし、全く飲まないということが難しい場合は、アルコールを飲む量を減らすなどの対策をすることをおすすめします。
そして、少しでも妊娠の心当たりがあればすぐに検査をして、妊娠に早く気づくことも大切です。妊娠に気づいた段階で禁酒をし、胎児性アルコール症候群を予防するのが最善の策、といえます。
ノンアルコールなら大丈夫?
アルコールが赤ちゃんにとって、悪影響があるということはお分りいただけたと思います。
でも、どうしても飲みたいときや、お酒の席に同席しなくてはならないこともあるでしょう。
そんな時は、0%のノンアルコールを上手に利用してみてください。最近では、おいしいノンアルコール飲料がたくさん販売されています。ノンアルコールで上手に気分転換をしていきましょう。
まとめ
今回は妊娠中にアルコールを飲むとどのようなリスクがあるのかについて説明しました。
妊娠中の飲酒は「このぐらいの量なら大丈夫」という線引きをすることが非常に困難です。そのため、妊娠を望んでいる時はアルコールを飲まないようにすることが一番の策なのです。
完全に禁酒ができなかったとしても、アルコールを定期的に摂取する機会を減らす、一回に飲む量を減らすなど、妊娠超初期の赤ちゃんのことを考えた生活を心がけるといいでしょう。
そして、妊娠に気が付いた時にはすぐにアルコールをやめるようにしましょう。
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<出典・参照元>
食品安全委員会 内閣府 妊婦のアルコール飲料の摂取による胎児への影響