はじめてさんのための不妊治療の教科書 その②〜不妊症検査って何をするの?病院選びと検査の流れ〜

  • 不妊治療・婦人科

なかなか子宝に恵まれず、「不妊症かも?」と感じたら。


不妊治療という言葉は知っていても、

「どこに相談すればいいの?」

「どんなことをするの?」

と不安になるものです。


でも、最初はみんな「はじめてさん」。


はじめての診察や検査も、おおまかな流れを知っておくことで気持ちが楽になるはずです。

そこで今回は、これから不妊症の検査・治療に踏み出そうとしている人のために、不妊治療の第一歩である「不妊症検査」についてお話します。

 

初診のタイミングはいつ?

妊娠を望む健康な男女が避妊せず性生活を送った場合、90%の女性が1年以内に妊娠するというデータがあります。

このことから、「赤ちゃんを望んで1年間妊娠しなかったら、不妊症の検査をしましょう」というのが現在の定説です。

しかし、これは女性が35歳未満の話。

女性の年齢が35歳以上40歳未満の場合は、半年で受診したほうがよいとされています。


それ以外にも、はじめから不妊症のリスクを考えて、妊娠を望んだら早めに受診したほうがよいケースもあります。

可能なかぎり早く受診したほうがよいケース

(女性)

  • 40歳以上
  • 生理不順がある
  • 骨盤内の炎症性疾患(淋病・クラミジア感染症による子宮頸管炎・卵管炎など)にかかったことがある
  • 子宮筋腫・子宮腺筋症がある
  • 子宮内膜症がある
  • 卵巣の手術をしたことがある
  • 抗がん剤、放射線治療をしたことがある

 

(男性)

  • 精巣の手術をしたことがある
  • 大人になってから流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)にかかった
  • 性生活に問題がある(勃起障害、射精障害など)
  • 抗がん剤、放射線治療をしたことがある

 

不妊症の原因の割合は、男女ともに50%ずつ。

不妊症治療の第一歩である検査は、男女ともに一緒に進めることが原則です。

 

まずは信頼できる病院(クリニック)選びから

自宅から近いところに不妊治療を行っている産婦人科があればいいのですが、近所にない場合、近隣で探すことになります。


しばらくは検査や治療のために通院すること、妊娠した場合の妊婦健診・出産のことを考えると、通いやすいのが一番です。

ほかにも、信頼できる医師やカウンセラーがいるかどうか、設備や治療実績も病院選びの大切なポイントになります。


大きな病院であるほど高度な不妊治療を受けられる……と考えがちですが、最近では不妊治療専門のクリニックでも高度な検査・治療が可能です。


お仕事をしながら不妊治療を受ける女性も多いですから、自分のライフスタイルに合わせて通院できるかどうかも確認しておきましょう。

 

不妊症の基本的な検査 

不妊症の検査といっても、はじめから特殊で複雑な検査をすることはありません。

まずは、女性・男性ともに基本的な検査から行います。

 

女性の基本検査

問診

  • 月経の様子(初潮年齢・生理不順の有無・最終月経日・生理周期・経血量・生理痛の有無など)
  • 夫婦生活について(性交の頻度、タイミング、性交する上での問題など)
  • 妊娠・出産歴
  • 病気・手術歴・服用している薬の有無

  

基礎体温表 

  • 「基礎体温をつけていないと診察を受けられない」ということはないですが、できれば、数ヶ月分あったほうがいいでしょう。
  • 排卵・黄体機能の評価や、今後の検査の日程を決めるうえで重要です。

 

内診、触診

  • 膣・子宮・卵巣の状態や、痛みの有無を確認します。

 

経膣超音波検査

  • 子宮・卵巣の病気、卵胞の発育状態をみることができます。

 

血液・尿検査

  • ホルモン分泌の様子をみることで、卵巣・黄体機能を評価します。

 性腺刺激ホルモン(黄体化ホルモン・卵胞刺激ホルモン)

 女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)

 プロラクチン

 男性ホルモン(テストステロン)

  • クラミジア感染症の有無

 卵管因子の不妊症のスクリーニングとして行います。

 

子宮卵管造影

  • 造影剤を子宮口から注入し、その様子をX線撮影することで、卵管の通り具合や子宮の形に異常がないか確認します。
  • この検査によって一時的に卵管の通りがよくなり、自然妊娠をするケースがあります。
  • 卵管の通りを確認する方法としては、ほかにも通気法・通水法などがあります。

 

頸管粘液検査

  • 頸管粘液の量・透明度・のび(牽引性)をみて、精子が進入できる環境であるか確認します。

 

ヒューナーテスト

  • 性交後テストともいい、精子と頸管粘液の相性を知ることができます。
  • 排卵日近くに性交を行い、その数時間後に頸管粘液内の精子の運動性をみます。
  • 粘液内に運動性のある精子が多くいれば妊娠率は高く、反対に少ないと免疫性不妊の原因である抗精子抗体の存在を考えます。

 

男性の基本検査

問診

  • 夫婦生活について
  • 射精の状態
  • 喫煙の有無
  • 病気・手術歴・服用している薬の有無

 

視診、触診

  • 精巣の大きさ、精索静脈瘤の有無をみます。

 

精液検査

  • 2〜7日の禁欲期間後、病院(クリニック)で精液を採って検査します。

保管方法が適切であれば、自宅で採ったものを持参してもかまいません。

  • 精液の量・精子の濃度・運動率・形態・感染症などをみます。
  • 乏精子症・無精子症・精子無力症の診断をするうえで重要です。

 

血液検査 

  • ホルモン分泌の様子をみることで、造精機能を評価します。

 男性ホルモン(テストステロン)

 性腺刺激ホルモン(黄体化ホルモン・卵胞刺激ホルモン)

 

これらの基本検査で異常がみられた場合、女性はさらに腹腔鏡・子宮鏡検査、抗精子抗体検査などの追加検査を受けます。

男性の場合も、基本検査で無精子症などの異常が認められた場合、染色体・遺伝子検査や精巣生検といった追加検査を受けます。

 

一度の診察ですべての検査を終え、不妊症の原因を突き止めるというのは非常に困難です。

女性の場合、ホルモン分泌や排卵の様子は月経周期に合わせて検査をする必要があるため、どうしても1ヶ月ほどかかってしまいます。

 

しかし、いずれも不妊治療の方向性を決める大事な検査です。

慣れない検査に緊張するかもしれませんが、あまり身構えず、リラックスして臨んでください。

検査をしてもわからないことはある

不妊症検査ですべて「異常なし」と診断されたにもかかわらず、その後もなかなか妊娠できないカップルがいます。

このような原因不明の不妊症は約10%いるといわれ、それは画像や数値で判断することのできない、さまざまな要因(生活習慣や心の状態など)が絡み合っているからでしょう。

では、原因のわからない10%のカップルは、検査や治療をする意味がないのでしょうか?


必ずしもそうではありません。

「病院に行って検査を受けてみよう」「先生やカウンセラーに話を聞いてみよう」と行動を起こすこと。その決断こそが、不妊症の克服に向けて一歩前進したことになるからです。

そして、検査で原因が見つからないからといって不妊治療をあきらめる必要はありません。


実際に、病院でどんなに検査や高度な治療を行っても子宝に恵まれなかったカップルが、食事・睡眠といった生活習慣の改善に取り組むことで、無事に赤ちゃんを授かったというケースはたくさんあります。

 

不妊症検査は治療を方向づけるための大事なステップですが、「検査がすべてではない」ということも心に留めておいてください。

【まとめ】

赤ちゃんが欲しい。

そう願ってタイミングを図っても、妊娠しない日が1ヶ月、2ヶ月……と続くと不安が大きくなり、「検査をしたほうがいいのかも?」「でも、私たちに限ってまさか……」という葛藤が生まれることでしょう。

検査を受けようと思っても、パートナーにどのように相談するか、検査に同意してもらえるかという不安もあります。

検査に抵抗のある男性も、もちろんいるでしょう。

でも、赤ちゃんを望むのであれば、やはりしっかりと検査を受けたうえで適切な治療に進む必要があります。


悩んでいるだけでは、解決の糸口はつかめません。


よりよい夫婦関係を続けていくため、新しい家族を迎え入れるためのステップとして、あまり構えずに、「まずは相談してみよう」という気持ちで検査に行ってみてはいかがでしょうか。

 

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<出典・参照元>

不妊治療ガイダンス 第3版 (編著:荒木重雄 浜崎京子 医学書院)

生殖医療の必修知識 2017(一般社団法人 日本生殖医学会 編)

最新 不妊治療がよくわかる本(辰巳賢一 著 日本文芸社)

産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2017(日本産婦人科学会/日本産婦人科医会)