不妊・婦人科疾患を治す基礎体温の見方第5回目は、低温期から高温期への上がり方が遅いタイプを見ていきましょう。
体温がゆっくり上がるひとは、排卵がスムーズにできてない。
低温期が終わり、高温期に移り変わるのが排卵期です。
この時、いった何が起きているのでしょうか?
低温期に卵胞は次第に大きくなっていきます。そして、成熟した卵胞から卵子が飛び出すのが排卵です。
排卵期には低温期から高温期へと3日以内でスッと体温が上昇するのが理想的ですが、だらだらと体温が上がるというひとも少なくありません。
体温がスムーズに上がらない場合、排卵もスムーズに行っていないことが多いのです。
低温期から高温期に体温が高くなるのには理由があります。
卵子は卵胞という袋に入っています。
生理初日から3日目の卵胞は直径2~5mm程、月経8日目には10㎜に育ち、この後は一日2mmずつ卵胞が大きくなっていきます。排卵前日には約22mmになります。
このことから、おおよその排卵日を予測することができるのです。
そして、卵胞からは女性ホルモンであるエストロゲンが分泌されているのですが、このエストロゲンも卵胞が大きくなるに連れて、だんだんとたくさん出るようになります。血液の中のエストロゲン値が200〜300pg/mlを越えて2〜3日続くと、脳の下垂体というところから黄体化ホルモン(LH)が分泌されます。
この黄体化ホルモン(LH)が一気に大量にドバーッと出るので、この状態はLHサージと呼ばれています。LHサージが起きると約36時間後に排卵します。排卵というのは、卵胞から卵子が飛び出ることです。また、同時にこのLHの働きで、これまでエストロゲンを分泌していた卵胞の細胞が黄体に変化して、高温期のホルモンであるプロゲステロン(黄体ホルモン)を出すようになります。
このプロゲステロンの働きで体温が上昇するため、高温期(0.3〜0.5度、低温期に比べて高くなる)になります。体温が上昇するために必要なプロゲステロンの量は3〜5ng/mlですが、妊娠するためには高温期の中頃に10ng/ml必要です。体温がなかなか上がらないということは、この妊娠するために必要なプロゲステロンが十分に出ていないのです。
排卵期に、ガクッと体温が下がる日を体温陥落日といいますが、ある人とない人がいます。この体温陥落日に排卵するひとが全体の約3割、体温陥落日の翌日、高温期に上る直前の低温期最終日に排卵するひとが全体の約7割ということがわかっています。なので、おおむね、この2日間に排卵すると考えていいでしょう。
また、排卵期にはドロッとしたオリモノが出ます。指で触るとビヨ〜ンと10cmくらい伸びるのが特徴で、他の時期には出ません。精子はこのオリモノの中を泳いで子宮に入りますから、このオリモノが出ているかどうかもしっかりチェックする必要があります。
これまで排卵期に起こることについて説明してきましたが、低温期から高温期にゆっくりと3日以上かけて体温があがるひとは、排卵がスムーズに行っていないことが考えられるのです。排卵がスムーズにいかないと、そのまま不妊につながります。
体温が上がるのに時間がかかる場合、西洋医学的には、
・排卵障害
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
・高プロラクチン血症
・甲状腺ホルモン異常
などが考えられます。
排卵がスムーズに行かない場合や、確実に排卵させたい場合、病院での治療では排卵期にhCG注射をされることが多くあります。このhCGはLHと同じように成熟した卵胞に働きかけて人工的に排卵を起こしています。この注射をすると約36時間後に排卵します。
東洋医学的な体質改善法
基礎体温がしめすパターンからは、いくつかの体質的な背景を読み取ることができます。全員が全員そうであると言い切れませんが、そうである傾向が高いのです。
あてはまる場合には、そこを切り口にいまの状況を打破できる可能性も高いからこそ、自分の体質をしっかりとみてみましょう。
漢方的には、育てる力である「陰」の補充と、体のヘドロである「痰湿」を取り除いて浄化する対応を取ります。
1)重陰不足(じゅういんぶそく)
漢方で「陰」というのは、育てる力であり、生殖力を大きく左右します。基礎体温の低温期は陰であり、高温期は陽の時期ですが、生理周期はこの陰陽の変化のリズムそのものです。
低温期に陰の力が十分にたくわえられた状態を重陰といいますが、この重陰によって排卵期に陰が陽に転換すると考えられています。この陰の力が不足な状況だと、陽への転換、つまり排卵がスムーズにいきません。
排卵がスムーズに行かない方は、低温期の状態が不安定で、ガタガタしているひとが多いのも特徴です。陰の力が弱く不安定だからこそ、低温期も不安定になります。
学校を想像してみてください。静かで穏やかな環境のほうが、勉強がはかどりますよね。逆に、ガチャガチャと騒々しく、学級崩壊がおきていたりすると、勉強はなかなかうまくいきません。
低温期がガタガタで不安定な状況というのは、学校が騒々しく学級崩壊が起きているような状況なのです。そのため、卵胞はうまく育つことができません。
陰というのは、卵胞がすくすくと育つためによい環境を整えてくれる力です。陰がたっぷりあると、よい卵胞が育ち、排卵もスムーズに行われます。
では、どうやったら陰を増やすことができるのでしょう?
それはズバリ睡眠です。
陰は夜、養われる。と漢方では言われます。
十分な睡眠時間と、ぐっすりと眠ることが、低温期の陰が増えるために欠かせません。
夜11時には眠りましょう。
ぐっすり眠れているかどうかは、朝、起きた時にわかります。例え睡眠時間が十分であっても、起きた時に疲れが残っていたり、だるさやしんどさがあるようなら、それは良い睡眠とは言えません。眠りの質が低下している可能性があります。
この場合、女性に多いのが血流不足。血が足りなくなると睡眠が不安定になり、眠りも浅くなります。そして、この睡眠の質の悪化は、血の不足を招くため、さらなる不眠スパイラルへと突き進むことになります。
血を増やす生活をこころがけてください。
食生活で陰を増やす食材は、ひじき、黒豆、黒ごまといった色の黒い食材。また、牡蠣、あさり、しじみといった貝類やヤマイモ、百合根などもおすすめです。
漢方での治療は、滋陰益気(じいんえっき)という方法を使い、補陰薬(ほいんやく)、補腎薬(ほじんやく)などで陰を直接補っていきます。
2)痰湿瘀血(たんしつおけつ)
排卵障害が起こる方には、卵巣の表面が硬くなっていて、排卵がスムーズに行かないひとも多くあります。
この卵巣の表面が硬くなる状態を、漢方では痰湿と捉えます。痰湿というのは、ヘドロのような体にとって悪いもので、体の浄化の必要があるのです。
体質的には、
肥満気味、皮下脂肪が多い、ニキビが出やすい、塊ができやすい、甘いものが好き。
などがあり、西洋医学的に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)になりやすい体質とほぼ重なります。
この痰湿が生まれる原因は、胃腸にあります。胃腸が汚れると痰湿が生まれます。
そして、痰湿がある場合には瘀血(おけつ)という血流が悪い状態が起こります。
これも、排卵障害を引き起こす重要な原因です。卵胞が黄体に変わって高温期のホルモン(プロゲステロン)が出るためには、卵巣の血流がよいことが西洋医学的にも、東洋医学的にも必須です。
排卵の際に、卵胞が黄体に変化する時に発達した血管網が作られて、黄体にたっぷりと豊富な血流が送られます。それによって、プロゲステロンの原料となるコレステロールや黄体を元気にする物質が届けられます。逆に黄体からプロゲステロンを子宮に送るためにも重要なはたらきをしていることがわかっているのです。
黄体の血流は高温期の初期から増えていき、後半になると血流が減少して黄体が弱っていき生理が来ます。また、妊娠すると黄体では黄体期中期と同じ血流レベルが妊娠7週まで維持されるのです。
排卵の状態をよくすることは、黄体の質をよくすることにつながります。続く受精、着床、妊娠の継続へと進むために、黄体の血流改善は絶対に欠かすことができません。不妊の改善に直結しているのです。
この場合に注意したいのは、まず食生活です。下記のような点を意識してみましょう。
・主食はなるべく玄米か雑穀入りのごはん。
・海藻、きのこ、根菜を積極的に使い、食物繊維たっぷりに。
・脂っぽいもの、味の濃いものを控える。
・甘いもの、糖分はとりすぎないように。
・夕食は軽めか、できたら時々夕食断食をする。
また、痰湿と便には深い関係があります。トイレでうんちが浮かぶかどうかは、ぜひ注意してみてください。浮かばない時は、腸内環境が悪玉菌優勢になっていると思って差し支えないので、腸内環境の改善がとても重要になってきます。
漢方での対応は、化痰袪瘀(かたんきょお)、活血化瘀(かっけつかお)といった対応で、痰湿を取り除いて体を浄化し、血流をよくしていきます。
他に、排卵期は気のめぐりも強く関わります。ストレスがかかると気のめぐりが悪くなり、排卵にも影響を与えます。リラックスして過ごすようにしたいですね。
体というのは、手をかけてあげると必ず応えてくれます。まずは自分でできる改善に取り組んでみる。それでもうまくいかなかったら、薬膳茶や漢方など、自然の力を積極的に利用した体質改善にチャレンジしてみてください。
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